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縦読みマンガが
創り出す次の世界標準

「LINEマンガ」の髙橋 将峰さん、「ジャンプTOON」浅田 貴典さん、「ピッコマ」杉山 由紀子さんによる鼎談。

マンガアプリで掲載されている縦読みマンガのフォーマットから、近年、魅力的な作品が次々と登場し、映像化されるものも出てきました。世界的コンテンツを輩出してきた日本のマンガの中でも、縦読みマンガはその最先端の実験場のような役割を担いつつあります。

このストーリーでは、3つのマンガアプリそれぞれを代表するお三方、「LINEマンガ」髙橋 将峰さん、「ジャンプTOON」浅田 貴典さん、そして「ピッコマ」杉山 由紀子さんに、各アプリに掲載されている縦読みマンガのおすすめ作品と、昨今の縦読みマンガの動向から見えるマンガの可能性について聞きました。

「財閥家の末息子」

ビジネスものが 大人を物語に回帰させる

ーー事前に、自身の所属先以外の2つのアプリからのおすすめ作品を選んでいただきました。選ばれた作品のジャンルが多岐に渡るのが印象的でした。まずは「LINEマンガ」の作品からお話をうかがっていけたらと思います。

「ピッコマ」杉山さん: 「『財閥家の末息子』(LINEマンガ)を選んだのですが、これは大人の読者にも共感してもらえる作品ですね。ドラマ版で印象に残ったシーンがあり、その前後の流れをもっと深く知りたくて、原作のマンガを読みました」

「ジャンプTOON」浅田さん: 「もう1回あのシーンを見たい、あのキャラクターに会いたい、あのセリフを聞きたい、と原作に回帰するのですよね。自分も好きな作品の1つです」

「LINEマンガ」髙橋さん: 「この作品は個人的にも、テーマがビジネスなので入りやすく、金融に関連したできごとや会社での立ち居振る舞いなどが描かれていて、登場人物たちに親近感を覚えます。大人世代も楽しめる作品だと思います」

インディーズ出身の新星が 縦読みマンガの転換点に

ーー3つのアプリすべてで掲載されていて、縦読みマンガの近年の進化を象徴する作品としてあがっていたのが、「氷の城壁」でした。

髙橋さん: 「この作品は、『LINEマンガ インディーズ』から登場し、賞を受賞して『LINEマンガ』の公式連載となり、その後各配信サイトで掲載されたという点でも、他とは異なる特徴的な作品ですね」

杉山さん: 「『氷の城壁』は普遍的な人の心情が描かれた良心的な作品だと思います。主人公の『他人に自分のテリトリーに入ってきてほしくないけど、つながっていたい』という心理描写を、ずっと読んでいたくなります。縦読みマンガではこれまでなかったジャンルを『氷の城壁』が開いてくれたと思っています」

浅田さん: 「傑作だと思いますね。時代の空気感を捉えて、盛り込んでいるのがすごいです。この10年間に少年・少女だった人たちは、ソーシャルメディアなどで他者の目にさらされる機会が非常に多かった。その中で、自分の内心を素直に出せないけど、仮面をかぶったままでは他人とつながれない、というストレスがあったはずです。彼らが直面した空気感を、ストレートにキャッチしていて、縦読みマンガの可能性を広げた、時代の転換点になる作品だと思います」

「氷の城壁」

髙橋さん: 「当初は、アプリの中で特に目立つプロモーションをしてはいなかったのですが、次第に拡散されていったことを受け、バナーを作ってプロモーションしました。若い世代に人気が高い作品は、プロモーションの仕方や作品認知の広がり方もこれまでとは違う印象です」

浅田さん: 「縦読みマンガは一見すると、特定のカテゴリーが人気を占めていると捉えられがちでした。あくまでも肌感覚ですが、ここ数年でその状況が変わってきたと感じています」

髙橋さん: 「異世界ものや令嬢ものが多かった時期もありますが、最近は医療系やビジネス系など、ジャンルが広がっている実感があります」

杉山さん: 「同じ印象を持っています。特にビジネス系の作品は大人層の注目をマンガに引き戻すコンテンツになっていると思います。『幼馴染コンプレックス』(LINEマンガ)も新しい突破口のような作品ですね。ラブコメのジャンルは、縦読みマンガでは人気になりづらかったのですが、この作品のように等身大で、『自分にもこんなことがあったらいいな』という要素を詰め込むと、読者に届くのだなと思いました」

表現も拡張している 縦読みマンガの世界

浅田さん: 「縦読みマンガで、デフォルメ表現のバリエーションが増えたな、とも感じています。つい最近まで、リアルで写実的な画が流行している印象でした。しかし『幼馴染コンプレックス』はいわゆる日本の横読みマンガのデフォルメのような絵柄で、キャラクターの豊かな表情が印象的でした。表現、作者のこだわりの出し方も多様になっていますよね。『枯れた花に涙を』(LINEマンガ)は、読んだ時に右ストレートでぶん殴られたような衝撃でした(笑)」

髙橋さん: 「一見、女性向けの作品と思われそうですが、実は男性読者も多いのです。読者の属性を問わず人気になる作品が時折ありますが、この作品もその顕著な例の1つですね」

浅田さん: 「主人公の樹里の性格や、蓮の筋肉質で広い肩幅の描写を、作者が本当に魅力的だと思って描いているのが伝わってきます。カラーリングも、他作品の塗り方とは違って、この作品に一番ふさわしい塗り方はこれだ!という作者の強い主張を感じました。また、『コードネーム:バッドロー』(LINEマンガ)は、徹頭徹尾、かっこいい男が見得を切る様を描くことに徹していますよね」

「コードネーム:バッドロー」

“ジャンプらしさ”の秘密とは

髙橋さん: 「子どもの頃に読んだ週刊少年ジャンプ作品も、必ず印象的なシーンがあって、もう1回見たい、と何度も読み返しました。実は『ラスボス少女アカリ~ワタシより強いやつに会いに現代に行く~』(ジャンプTOON)を読んだ時にも同じことを感じました。ストーリーは転生もので、縦読みマンガで親しみのある設定ですが、どこかしら“ジャンプっぽさ”を感じるのです。これは一体どんな仕掛けがあるのでしょう」

杉山さん: 「私も同じことを思いました。縦読みマンガだけど、週刊少年ジャンプ作品を読んでいる感覚になったのです」

浅田さん: 「集英社全体のマンガに対するアプローチの話になりますが、キャラクター至上主義なのです。魅力的な主人公を作ろう——そのために企画があり、キャスティングがあり、ストーリーがあります。主人公が立っていることが、もしかしたら『ジャンプっぽい』のかもしれません」

杉山さん: 「例えば『伝説の暗殺者、転生したら王家の愛され末娘になってしまいまして。』でも、他の縦読みマンガだと、登場人物の行動にリアリティを求めて、例えば殺し屋が赤ちゃんに転生しても、まだ赤ちゃんだからかつての技術を使えない設定にします。ですがこの作品では、赤ちゃんなのに過去の技術が使えてしまう。主人公をかっこよく見せることに特化しているのですね」

浅田さん: 「リアリティの感じ方は、世代や文化などによっても感じ方が変わって興味深いですね」

杉山さん: 「日本の転生ものは、過去を忘れて新しい人生を楽しもう、という設定が多いですが、一方で海外では、転生した後も努力や苦労をするのが多い印象です」

髙橋さん: 「国や地域で流行るタイトルが異なる理由をよく考えますが、根底にある文化的価値観の影響もあるのでしょうね」

杉山さん: 「幼少期にどんな物語に触れてきたかによっても、違いが生まれるのかもしれません」

浅田さん: 「そうですね。2020年代以降の映像配信プラットフォームの登場で、グローバルでコンテンツがほぼ同時に観られる時代になりました。10代からその環境で育ったユーザーや作り手がどのような価値観を持つのか。コンテンツの未来を変えそうです」

縦読みマンガで 再生する名作の耀き

髙橋さん: 「古い名作の形を変えて新しくする創作も起きてますね。『甘い生活 タテマンガ版』(ジャンプTOON)は以前、横読みのマンガで読んだのですが、縦読み版を読んだ際に、最初は同じ作品だと気付きませんでした。縦読みでの最適化を考えるとこうなるのか、とおもしろかったです」

杉山さん: 「マンガを原作にして、縦読みマンガにすることで、名作の普遍性が証明されますね。縦読みでカラー化された『怪獣8号 タテカラー版』(ジャンプTOON)を読んだ時も、冒頭の20話が、縦読みマンガとして大成功の構成になっていると思いました。縦でも横でも、この作品は、読者が読みやすい話の区切り方、テンポ感を前提に作られていますね」

「怪獣8号 タテカラー版」

浅田さん: 「『怪獣8号 タテカラー版』は、原作者の松本直也先生とジャンプ+編集部にフィードバックをもらいながら、集英社TOON FACTORYという子会社で制作しています」

杉山さん: 「名作を縦読みマンガで初めて知る人が増えるのも、作品自体の間口が広がって良いことですね」

縦スクロールのリズムと 画作りが生むオリジナリティ

浅田さん: 「『無限の魔法使い』(ピッコマ)は、真っ直ぐな少年賛歌の物語ですね。主人公の少年を拙速に成長させないところに、好感を持ちました」

杉山さん: 「少年の成長譚は、日本の読者とは相性が良くないのかもしれないと思った時期がありました。当時人気のあった作品は、どこかに主人公が持つ大人の目線が入っていたのです。例えば転生ものでも、少年ではなく大人が転生して、転生前の記憶や意識がある。ところが『無限の魔法使い』は、純粋に少年が自分の努力と能力で逆転していく物語で、それがちゃんと読者に届いたのがうれしい驚きでした」

浅田さん: 「『ラグナール回帰の剣士』は、キャラクターのデザインにおいて、他の作品との違いを作ろう、楽しませようとして工夫しているのが伝わってきます」

「六本木クラス」

髙橋さん: 「映像化された縦読みマンガの代表格ともいえる『六本木クラス』(ピッコマ)は、原作とドラマの差がほぼないくらい、忠実に映像化されて、すごく驚いた作品です。映像で撮影している向きもマンガのコマと同じシーンもありました」

浅田さん: 「ドラマから入る人も、縦読みマンガから入る人も、どちらも同じ作品の統一感に驚きながら楽しめる作り方になっていますよね」

杉山さん: 「当時の縦読みマンガの中では、シンプルな絵柄が印象的な作品で、映像的にシーンを重ねて、縦スクロールで表現するのも、最近の作品とは少し違うアプローチです。もしかしたら作者が映像作品の画面イメージで、画作りしていたのかもしれません」

浅田さん: 「『母が契約結婚しました』(ピッコマ)は作家性あふれる絵作りで、読んでいて目が喜ぶ作品です」

日本のマンガから世界標準へ

髙橋さん: 「『俺だけレベルアップな件』(ピッコマ)は、先にアニメを見始めて、その後でマンガも読みましたが、両方に触れることで作品に対する解像度が上がり、よりおもしろかったです」

浅田さん: 「韓国でもヒットになり、映像化で米国でも話題になった。縦読みマンガの中でもエポックメイキングな作品だと思います」

杉山さん: 「海外発の作品がここまで日本で定着した、というのは正直驚きました。驚きといえば、この作品はプロローグで、『最弱ハンターから最強S級ハンターへの覚醒』と成長のゴールを宣言して、最初に結末を言ってしまったのにも驚きました」

浅田さん: 「先にゴールを伝えることでこの先、どういう道をたどるのか、読者の安心感が生まれています」

杉山さん: 「安心感に近いかもしれませんが、『ピッコマ』にとって縦読みマンガは、マンガを読むことのハードルを下げた表現、だと捉えています。主人公のモノローグで進む作品は、動画のながら見をするように、受動的にストーリーを追いやすいところがあります」

「無限の魔法使い」

ーー最後に、ご自身のアプリで今後、取り組んでいきたいこと、達成したい未来図について教えてください。

髙橋さん: 「雑誌の見開きの面にどう描くかをクリエイターが考えて、横読みのマンガが生まれた。その後、デジタルデバイスがコンテンツを楽しむツールになった時に、縦読みという表現方法は一つの解だったのだと思いますね。もう一つ、縦読みマンガは若年層や海外にも広がっています。そういう層に向けて、日本のマンガ文化をどう届けていくのか。縦読みマンガが海外で受け入れられやすいなら、まずその形にして広げていこう、という考えがあります。マンガをさらに世界に展開していくハブとなれればと思っています」

浅田さん: 「日本のマンガやアニメが作ってきた、デフォルメ表現の画に影響を受けた、世界中の絵描きが登場しています。この先が楽しみですね。『ジャンプTOON』は『マンガ雑誌』的な性格を持っています。編集部員が心から面白い!と思っている作品を届けていきますし、それが一番読者の心を動かすと信じています」

杉山さん: 「紙とデジタル、横読みと縦読み、と比較されることがよくありますが、個人的には、縦読みマンガは、マンガというグループに種類が増えただけだと思っています。『ピッコマ』として、どうやってマンガのグループを応援していくか、を考えています」

LINEマンガで読める本文で紹介した作品

「財閥家の末息子」
「幼馴染コンプレックス」
「枯れた花に涙を」
「コードネーム:バッドロー」
「氷の城壁」

ジャンプTOONで読める本文で紹介した作品

「ラスボス少女アカリ~ワタシより強いやつに会いに現代に行く~」
「伝説の暗殺者、転生したら王家の愛され末娘になってしまいまして。」
「甘い生活 タテマンガ版」
「怪獣8号 タテカラー版」
「氷の城壁」

ピッコマで読める本文で紹介した作品

「無限の魔法使い」
「ラグナール~回帰の剣士~」
「六本木クラス」
「母が契約結婚しました」
「俺だけレベルアップな件」
「氷の城壁」