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羽海野チカの
未来をはじめる文房具

2026年の新生活シーズンがやってきました。App Storeにあるアプリは、この春も、新しい世界へ踏み出す人を応援し、あなたの可能性を広げてくれます。

このストーリーではマンガ創作の分野で活躍を続け、自分の領域のもう一歩先へ踏み出してきた羽海野チカさんにスポットライトを当てています。

羽海野チカさんは2007年から19年間にわたって連載を続けてきたマンガ作品「3月のライオン」のクライマックスに向けた物語を描きあげようとしています。幼い頃にすべてを失った17歳のプロ棋士、桐山零を中心に、様々な人間が、何かを取り戻していく物語。執筆中の羽海野さんに、連載の途中から使い始めた作画の新たな相棒との軌跡、これまでとこれからの一歩について聞きました。

羽海野チカさんが19年間にわたって連載を続けてきた将棋を題材にしたマンガ作品の「3月のライオン」。

ーー羽海野さん、こんにちは。今日はよろしくお願いします。羽海野さんがマンガやイラストの制作において、作画アプリの「Procreate」とiPad、そしてApple Pencilを使っていると伺いました。

羽海野さん:「連載中の『3月のライオン』のマンガ部分は今もアナログ作画なのですが、単行本の表紙や扉絵カラーなどは『Procreate』というアプリとiPadを使って描くことが増えてきました。『Procreate』はシンプルな作画アプリなので、初心者の私にも使い方がわかりやすかったです。そして描ける絵の幅がぐんと広がりました」

ーーありがとうございます。何巻の単行本表紙が「Procreate」で描かれたものになりますか。

羽海野さん:「『3月のライオン』では16、17、18巻の表紙がiPadを使って描いたものです」

羽海野さんが「Procreate」を使って描いた連載中の「3月のライオン」単行本17巻表紙のイラスト。

ーーデジタルデバイスとアナログの文房具とで、作画をする際に違いを感じることはありますか。

羽海野さん:「以前は手描きで水彩絵の具を使って描くことが多かったのですが、アナログの頃は失敗が怖くて『緊張し過ぎて絵が硬くなりすぎる』ということの繰り返しでしたが、デジタルでは今までなかなかできなかった『思い切った構図』や『色使い』に挑戦することができるようになりました」

ーーデジタルだからこそできたと思う表現、また今後挑戦してみたい表現はありますか。

羽海野さん:「特に『光っているもの』を描くにはデジタルは本当に美しく光が描けるので、本物のような夜の街明かりを表現できるようになったことがとてもうれしいです。『デジタルで描いた方が生きる絵』と『アナログで描いた方が生きる絵』があると思うので、それを『これはどっちで描いた方がすてきかな?』と考えるのもまた楽しいです。そして今は『自分で描いた絵を自分で動かす』ということや3Dでかわいいお部屋や動物やアクセサリーを作って3Dプリンターで出力することにも興味があります」

同じく「Procreate」で描かれた「3月のライオン」単行本16巻表紙のイラスト。

ーー長らく取り組んできた大切な物語がクライマックスに向かっていくことは、途方もない大きな一歩だと思います。19年間描き続けてきた「3月のライオン」の連載を通じて、羽海野さん自身に影響を与えた“一歩”や、あるいは自身の中で何か変化したことはありますか。

羽海野さん:「本当につい最近、2か月くらい前に、大変年齢的に遅かったのですが、『自己肯定感』というものを少し理解することができました。これは多分ここまで仕事を積み重ねてきて、いろんな方と出会い、一緒に作品を作り続けてきたこと、そして、たくさんの読者さんが、作品を受け取ってくださり、続きを楽しみにしてくださっている、ということが、少しずつ降り積もって私をここまで送り届けてくれたのだろうなぁと感謝しております」

勝ち数が減れば いずれ 僕は簡単に 居場所を失ってしまう
「3月のライオン」24話 桐山零


ーー「3月のライオン」を執筆する中で、羽海野さんが最も幸せやよろこびを感じる瞬間はどのようなときでしょうか。

羽海野さん:「私のマンガというものは限りなく『独り言』や『打ち明け話』に近い個人的なものだと思います。なので『これは誰かに届くのだろうか』と毎回本気で苦しく泣きたくなります。けれど、それを『受け取りました!』と言ってくださる読者さんからのお手紙や感想をいただいた時、ほんとうにうれしいです。描いてきてよかったと心から思います」

私思うんだ きっとこんな風にね しつこくてあきらめきれない気持ちを 「向いてる」って言うんじゃないかなって
「3月のライオン」172話 川本ひなた

ーー「Procreate」以外で、普段、息抜きや趣味で使っているアプリやゲームがありましたら教えてください。

羽海野さん:「数年前にキャラクターを描かせていただいた『Fate/Grand Order』というゲームが大好きで、ログインボーナスをいただくために毎日せっせとアプリを開き、美しい画面に見惚れています。あとは『ホームスケイプ (Homescapes)』というパズルのゲームが大好きで、仕事の合間にパズルとにらめっこを楽しんでいます。実は今までiPad以外にもAppleのデバイスをずっと使ってきました。リンゴのマークも大好きで、デバイスから、なんというか『機械』や『家電』ではなく『未来の夢の文房具』という雰囲気を感じます」

羽海野チカさんの自画像。

ーーこれまで描かれてきたマンガのシーンやイラストの中で特に好きなもの、気に入っているものはありますか。

羽海野さん:「18巻の表紙です。高校時代は御茶ノ水駅で毎日乗り換えていたので思い出があちこちの風景に混ざっています。中でも一番好きだった聖橋から眺める、神田川の上を中央線と丸の内線が交差するジオラマのように愛らしい風景を自分の手で描けたことが本当にうれしかったです」

聖橋からの風景が描かれた「3月のライオン」単行本18巻表紙のイラスト。

ーー今、羽海野さんが新たに“始めたい、進めたい一歩”はありますか。

羽海野さん:「外で絵の作業をできるようになりたいです。デジタルで絵を描くのにも少し慣れてきたので、いろんな場所で絵が描けるようになりたいです。長いこと自宅の仕事机の前で暮らしてきたので気分を切り替えるためにも、時には家から出て、取材をしながら描けるようになれたらと思います」

長くなじんだ場所から次のステージに進む時にも、描き続けるその背中をアプリはそっと押してくれます。新たな生活が始まる季節、次の一歩を踏み出すその時、あなたが主人公の物語が動き始めます。

3月のライオン©羽海野チカ/白泉社