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都会の路上で
いきものに出会おう

東京のまんなかで、いきものを探して歩いてみました。

道端に何気なく生えている草や花、公園で見つけた虫や鳥など、身近な暮らしの中で出会う様々ないきものたち。「Biome(バイオーム)」はそれらの写真を撮ってコレクションしたり、AIを使って名前や種類を判定したりできるアプリです。

「Biome」には日本全国から毎日、多様ないきものたちの発見が投稿されています。それでも自然の少ない都会で暮らすユーザーにとっては、いきものを見つけるのが難しく感じられるかもしれません。

アスファルトで覆われた道や、街角の公園で探してみると、実際にどれくらいのいきものと出会えるのでしょうか。よく晴れた5月のある日、App Storeのエディターが東京都心の街並みを歩きながら探してみました。

道端の花に目を向けよう

「どんな街中でも、街路樹の植え込みやアスファルトのすき間にすら、自然に繁殖している植物があります」と語るのは、「Biome」のデベロッパ、株式会社バイオームの龍野瑞甫(たつの・みづほ)さんです。今回は龍野さんの同行を得て、私たちは特別なクエストに向かう気持ちで街へと繰り出しました。

歩き出してさっそく見つけたのは、縁石の周りで咲いている黄色い小さな花です。写真を撮って「Biome」でAI判定してみると、カタバミの花とオッタチカタバミの花、どちらの可能性もあるようです。

龍野さんに聞くと「葉や花の形は似ているのですが、太い茎が地面からまっすぐ上に立ち上がっています。これがオッタチカタバミの特徴です。カタバミの場合は逆に、細い茎が這うように横に広がるんです」とのこと。カタバミはよく見かける植物だと思っていましたが、その細かい差になるほどと感心しました。オッタチカタバミを「ゲット」して、レア度は「E」の判定でポイントを獲得です。

普段は前ばかり見て歩く道ですが、アスファルトの継ぎ目や街路樹の根元には、小さな花を咲かせている植物がいくつもあることに気づきます。紫色の小さな花はトキワハゼ、石垣に茂っていた白い花はツタバウンラン。「雑草」という言葉をいったん頭から追い出してみると、目の前にある自然への興味と解像度が、一気に上がったような気分です。

路肩の砂地でスラリと茎を伸ばして咲いている、黄色い花芯の周りを白く細長い花弁が囲むかわいらしい花はヒメジョオンです。よく似た花で、開花時期が重なるハルジオンの花との見分け方が、アプリの中にまとめてありました。

「この2つはよく似た花で、花弁の色もかなり近いことがあります。区別できない場合は、茎を折って中が空洞であれば確実にハルジオンです」と龍野さん。また、都会の風景にもかなり馴染んでいる印象のヒメジョオンとハルジオンですが、「実は侵略的外来種としても有名です」とのこと。なるほど、とうなずきながらウォーキングは続きます。

都心の公園は小さなオアシス

オフィス街をしばらく歩き、私たちは公園に立ち寄ることにしました。都心にありながら、高く育った木々と流れる水や、大きめの池がある憩いの場です。ひんやりとした空気を感じながら、敷地に生えるツバキやシダ、アカメガシワ、紫の実をつけたヒイラギナンテンなどの様々な草木に集まっているのは、小さな虫たち。葉の裏側や枝の間に目をこらすと、小さなクモやハエ、アブなどを見つけました。

公園の中では、街頭よりも多くの鳥たちを見かけます。都会でもおなじみのドバト、ハシブトガラスだけでなく、水場に訪れていたのはカルガモの親子です。「カルガモのヒナは生まれてすぐ泳げますが、飛べるようになるまでは2か月ほどかかります」と龍野さん。そのかわいらしさに、いつまでも眺めていたい気持ちになりました。

大きめの池に目を移すと、水面をゆっくり泳いだり、岩場の上で陽に当たったりするカメたちを何匹も見かけます。頭の両側にある耳のような赤い模様が特徴的な、ミシシッピアカミミガメです。その名前の通り北米原産で、長らくペットとして輸入されてきました。その一部が池や川に放され定着し、侵略的外来種として問題となっています。

「見た目はかわいらしいですが、在来種のイシガメや水草を減らしてしまう恐れがあります」と龍野さん。人間が放したカメが公園の生態系を変えた結果を見ていると思うと複雑な気分ですが、いきものの記録を「Biome」へ投稿すると、こうした現状がデータとして記録され、蓄積されていくことにもつながっていくのです。

花に集う虫たちとの出会い

公園を出てしばらく歩くと、住宅街の一角にある別の小さな公園にたどり着きます。砂場や遊具が置かれた敷地の一角に、シロツメクサが花を咲かせて広がっている場所を見つけました。しばらく観察していると、花の蜜や花粉を求めて飛んできたのは小さな虫たちです。

花の上で蜜と花粉を集めているのはセイヨウミツバチの働きバチでした。龍野さんによれば「日本では、セイヨウミツバチとニホンミツバチが見られます。正確な同定には羽を通る翅脈(しみゃく)を見る必要がありますが、基本的に黄色っぽく明るい色なのがセイヨウミツバチ、黒っぽくて少し小さいのがニホンミツバチです」とのこと。

セイヨウタンポポの花の上に飛んできたのはヤマトシジミです。羽の上に並ぶ黒い斑点が特徴的で、日本で広くよく見られる代表的なチョウの一種です。「幼虫は街中でもよく見られるカタバミの葉を食べるので、それが都会でもヤマトシジミが繁殖しやすい理由です」と龍野さん。

ヤマトシジミに続いて見つけたのはモンシロチョウ。葉の上でじっとしている間は羽を閉じていたので、撮影した写真には記録されていませんが、羽の表側にはおなじみの黒い斑点が見られました。「飛び回る虫の写真を撮るのは難しく思えますが、じっと待っていると花や葉に留まるタイミングがあるので、そこを狙うのがおすすめです」と龍野さん。写真を撮るために息をひそめて近づくのは緊張しましたが、きれいな写真が記録できた喜びはひとしおです。

3時間の探索を終えて

汗ばむほどの陽光の下、龍野さんと一緒に3時間ほどウォーキングして記録できたいきものは40種類以上に及びました。東京のまんなかでも多くの自然が存在する、という事実に気づくよりは、「Biome」を通して観察することで、自分の眼差しが以前よりも細やかにアップデートされていくような感覚に驚きました。

中でも、ハキダメギクやユウゲショウなどといった、小さな花をひっそりと咲かせている植物たちの名前を知ることができたのは楽しい経験でした。また、コンクリートとアスファルトの狭間のような場所で、たくましく生えている樹木にも出会いました。電柱と公園の金網の間で大きく育っていたのは、なんとイチジクの木でした。龍野さんいわく「日本のイチジクは結実しないものがほとんどなので、これは自然に生えたというよりは、誰かがここに植えたものかもしれません」とのことでしたが、その生命力の強さに驚きました。

ぜひ、都会に住む読者のみなさんも、「Biome」を通じて身近ないきものたちを改めてよく観察し、その多様さと生命力の豊かさに触れてみてください。そこには、あなたの先入観を変えてくれるような出会いが待っているかもしれません。