iPadとApple Pencil、そして「Adobe Fresco」や「Procreate」といったアプリを駆使して、多彩な創作活動を行っている気鋭のイラストレーター、雪下まゆさん。書籍の装丁や広告などで、その精巧、かつ、どこか陰りのある、何より強い“感情”を宿した描写に魅了された人も多いでしょう。

今回は、雪下さんにイラストレーターとしての歩みやデジタルツールの活用法、そして創作についての考え方などを伺いました。
“描くこと”が大好きだった幼少期
「幼稚園の頃から、とにかく絵を描くことが大好きでした」
イラストレーションに関する最初の思い出を伺うと、雪下さんはこのように振り返ります。
「リアルに描くことにこだわりがあって、図鑑に載っている動物を模写したり、いろいろなテーマで描いていました。絵を描くのは純粋に楽しかったし、親も褒めてくれたので、どんどん好きになっていきました」
小学生の頃には「絵描きさんになりたい」と話していたという雪下さん。高校では本格的にプロになることを考え始め、多摩美術大学グラフィックデザイン学科へ進むことを選択します。
「映画にも興味があって、まだ具体的な方向性は定まっていませんでしたが、絵を仕事にしたいという思いは一貫していました」
デジタルで広がる イラストレーションの可能性
“板タブ”と呼ばれるペンタブレットを手に入れて、デジタルで描きはじめたのは高校生の頃。その後、大学進学とともにiPadとApple Pencilを購入し、本格的にデジタル作画に取り組みはじめたことで、自身の創作にも大きな変化があったと言います。
「それまでの創作は、基本的に紙と鉛筆でのモノクロだったのですが、色をたくさん使って描き始めたのはデジタルになってからです。パレットを自由に使えるし、塗り直しも簡単にできるので。大学に入ってから油絵をはじめて、油絵の“重ね塗り”の技法をデジタルに取り入れました。油絵の質感が重たくなる感じが好きで、『Adobe Fresco』はその表現を再現してくれるので、ずっと使っています」

iPadとApple Pencilの導入以来、雪下さんが主に使用しているアプリは「Adobe Fresco」と「Procreate」。それぞれの特長について、雪下さんは以下のように説明します。
「『Procreate』は軽い操作感で、感覚的に使えるのでラフスケッチを描くのにとてもよいと思います。『Adobe Fresco』はリアルなタッチが得意で、本格的な描き込みに向いています。どちらも使いやすいですが、初心者の方は『Procreate』からはじめてみるのがいいかなと思います」
デジタルの利便性/可能性に魅了される一方、「紙と鉛筆で描くことも大事」と雪下さんは強調します。「紙と鉛筆で描く、デッサンのスキルがベースにあった方がデジタルでの創作の可能性も広がると思います」
イラストレーションの制作過程
現在のワークフローを伺うと、「2つパターンがあります」と雪下さん。一つは、素材となる写真をもとに描いていくパターン。このストーリーの冒頭のアートはその一例で、今回実施したフォトセッションでの写真をもとに、雪下さんが「Adobe Fresco」で描いてくれたものです。

そして、もう一つのパターンは3Dグラフィックソフトの「Blender」を使う方法。簡単なモデルやシーンを作って、アングルやライティング(照明)を調整/確認しながら描くのが最近の主流と言います。
「モデルを作ってしまえば構図や陰影を自由に調整できるので、とても便利ですね。昔は漫画家さんが使うような木のデッサン人形を使っていましたけど、今はポーズを参考にできるようなアプリ(「イージーポーザー」「マジックポーザー」など)があるので、使用してみるのもいいかもしれませんね」
雪下さんの作画のワークフローは、「Instagram」や「YouTube」で公開しているタイムラプス動画でも確認できます。雪下さん自身、中高生の頃、ソーシャルネットワークなどで公開されているタイムラプス動画を見て学んだ経験があり、恩返しのような気持ちで公開しているそうです。
また、作画の過程において常に苦悩するのは、「完成形がなかなか見えないこと」と苦笑まじりに話します。
「いつまでたっても終わりが見えないんです。これで完成だ、とか、明確なサインはなくて、粘り続けて描いていて、ある場所を少し変えたら急に完成だと思える時もあって……。イラストレーションのレベルを上げたいという思いはどんどん出てくるので、出来上がるのはいつも朝になってしまうんです」
“自分らしさ”を獲得するまで
冒頭で触れたように、精巧かつ繊細な雪下さんの作品には、ひと目でそれとわかる独自性が感じられます。果たしてそれは、どのようにして獲得されたのでしょうか。
「多分、中高生くらいの時からもう今のような感じだったと思うんですけど。自分自身、結構暗くて、クラスの隅で絵を描いているようなタイプで、集団になじめないことにコンプレックスがあって。子どもの頃から描いてきた孤独感、閉塞感というか……。それが作品に出ているのかなと思います」

「でも、最近まで自分がやりたいことと、お仕事で求められること。そういうものの間でずっと行き来してて、ようやくちょうどよいところが見つかってきた感じがあります。自分ならではのものを見つけるには時間がかかると思いますが、続けるのが一番難しい。でも、続けていれば何かしら見えてくると思います」
最後にこれからの展望を伺うと、特別な目標はなく、今向き合っている仕事に全力で取り組んでいきたいと力を込めます。加えて、「洋服やプロダクトデザインにも興味があるので、自分のアパレルブランド(「Esth.」)は新しいシーズンに取り組んでいきたい」とも。
異彩を放つイラストレーション、そして他分野にも広がっていく雪下さんのクリエイションは、さらに多くの人を魅了していくことでしょう。

※インタビューは2024年10月に実施しました。
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