

記憶に残る物語を紡ぐ
人々が小説やマンガ、映画から大事なことを教わり、それが大事な思い出となるのと同じように、ゲームもプレイヤーに大事な思い出を残し、人生にいい影響を与える事ができると思っています。Odencat Daigoさん
ゲームが大好きで、中学生の頃からゲーム作りを始め、大学でコンピュータサイエンスを学び、ゲーム会社に就職。いくつかの企業でゲーム制作に関わった後、会社の解散を機に、ずっと自分が作りたいと思っていたゲームを作るため、インディーズデベロッパとして独立したというDaigoさん。現在は、Odencat(おでんきゃっと)という会社を立ち上げ、ゲームをリリースしています。
「ゲーム開発は好きでしたが、自分が本当にやりたいのは物語を語ることである、ということに気づき、物語中心のゲームをメインに開発しています」
Odencat株式会社に所属するのはDaigoさん1人ですが、開発はプロジェクトごとにチームを編成して当たっています。キャラクターの動きなどを作り込むスクリプターや、プロットを考えるシナリオライター、ゲーム内のグラフィックに関わる部分を担当するアーティスト、音楽を手がけるコンポーザーといった様々な才能を、世界各地から集めているのです。

「翻訳などの外注先を含めれば、協力者は世界中で20人を超える体勢です。チームは日本、ベトナム、デンマーク、米国、フランスなど多国籍で、Discordをメインのコミュニケーションツールとしています。チーム内のコミュニケーションも英語だったり日本語だったりと様々です。学生時代の友人や、インターネットで知り合ったゲームクリエイター、会社員時代の同僚、出張した時に知り合ったアーティストなど顔ぶれも多様です。今も新しい人々と知り合い、Odencatに共感してくれる方と新たなシナジーを生み出しています」
こうしたチームでの開発体勢を可能にしたのが、Daigoさんが独立してから2年かけて開発した、独自のロールプレイングゲームエンジンです。代表作とも言える「くまのレストラン」も、このエンジンを使った作品で、Odencatの様々なゲームは、このエンジンを改良しながら、ピクセルアートを用いた魅力的なゲームとして生み出されているのです。
最後のチャンスに生まれた作品
一見ほのぼのとした雰囲気の、くまのシェフが切り盛りするレストラン。そのレストランでは、現世での生を終えた人に、最後の晩さんをふるまっています。プレイヤーは助手の「ねこ」として、訪れた人の記憶のかけらから、思い出の好物を知り、提供する手伝いをするのが「くまのレストラン」です。「生と死」という、遊ぶ人にふと考えさせる瞬間をもたらすテーマの下で、登場人物の様々なストーリーを垣間見ることになります。
本作は、Daigoさんが、独立後「最後のチャンス」として創り上げたゲームでした。当時は一人で開発をしていて、手がけたゲームが売れなければ、そろそろ資金も気持ちも持たない、というタイミングだったそうです。

「重いテーマをやわらかく表現して提供しました。絵本のような、手触り感のあるやさしい感じを目指しています。また、ゲーム内容とのギャップでプレイヤーをびっくりさせたい、と考えていました。ピクセルアートの“粗さ”が、プレイヤーに想像の余地を与えると同時に、ディテールを省き、開発の工数を抑えられたのもポイントです。本作のテーマとピクセルアートの相性も良かったと思います」とDaigoさんは振り返ります。
天国を舞台に、釣りをしながらストーリーを楽しめる「フィッシング・パラダイス」は、「くまのレストラン」のスピンオフとして、並行して開発された作品です。「だれでも遊べる釣りゲームであることに加えて、魚のコレクション要素や、友達との親交を深める要素を盛り込んでいます」とDaigoさん。ゲームをクリアする頃には、まだこの世界に浸っていたい、と思ってもらえるように工夫を凝らしているといいます。
人生や死と向き合うストーリー
春が来たら溶けてしまう。そう告げられた雪だるまが、春から逃れるため、北にあるという楽園を目指す「スノーマン・ストーリー」は、道中の滑る床のパズルを解きながら、物語を追っていくゲームです。
他の雪だるまのものとされる遺品に触れることで、「人生」や「死」について思いをはせるストーリーが魅力です。

制作に取りかかる2年ほど前に、「春から逃げる雪だるま」とノートの片隅にスケッチしてあったアイデアが元になって生まれたゲームです。
「だれでも絵本のように楽しめるゲームを目指して作りました。エンターテイメントでありながら、何か教訓が得られる作品に仕上がったのではないかと思っています」とDaigoさん。
人と人とのつながりを描く
悪霊退治にいそしむネズミの活躍を描いた「ねずみバスターズ!」では、古いアパートを舞台に、住民たちとの交流の物語が展開されます。
あるアパートに引っ越した翌日、目覚めるとネズミになっていた主人公が、かつて人間だったという先輩ネズミとともに、悪霊と戦うことになります。「ねずみバスターズ!」ですが、倒すのはネズミではなく悪霊です。アパートの住人たちが、悪霊のせいで、心に悪い影響を受けていたのです。

Daigoさんは「本作が、人のつながりを見直すきっかけになるといいのかもしれないと思い、ゲームの開発が始まりました」と話します。
本作は「最後のシーンのためにすべてが設計されている」とのこと。「プレイヤーが自分の手で究極の決断をする。ゲームならではの物語を手軽に体験できる、そんな作品にすることに成功したと思っています」というエンディングを、ぜひあなたも体験してみてください。
自分たちが面白いと思うものを世界へ
Daigoさんがこうした、プレイしていくうちに引き込まれていくような、深みのあるストーリーを紡ぎ出す理由は、プレイヤーの記憶に残るゲームを作りたいからです。
「自分の記憶に残るゲームを思い出す時、その多くが日本のロールプレイングゲームで、それらのゲームは『ひまつぶし』ではなく、自分に確かに何かを残してくれた気がします」とDaigoさんは振り返ります。「だからこそ、自分も心に残るゲームが作りたい、記憶に残る体験も提供できるのだということを証明したいんです」
人の心を動かすためには、時にはショッキングなシーンを見せたり、考えさせる深みを与えたり、ということが必要である、と考え、ゲームのストーリーや構成を工夫しているといいます。

ゲームを開発する時は、「開発チームが自分たちで遊んでそのゲームをおもしろいと思えるか、自信を持って世に送り出すことができるか」を最も重視しているとDaigoさん。また、「ゲームならではの体験」を提供することも重要だと話します。
なるべく多くの人にゲームを楽しんでほしいという思いから、ゲームは必ず英語、日本語、韓国語に対応させてリリースしているそうです。先に紹介した「くまのレストラン」「フィッシング・パラダイス」「スノーマン・ストーリー」「ねずみバスターズ!」は、いずれも10言語以上に対応しており、世界に向けて配信する前提で開発をしています。
ちなみにOdencatという会社名は、「くまのレストラン」に出てくる、おでんが大好きなおでん猫というキャラクターに由来しています。かたすぎず、少し面白さもある名前。そして、おでんにはいろいろな具があることから、いろいろな能力を持ったクリエイターがOdencatという組織の中でそれぞれの味を発揮する、という、開発体制の象徴でもあるとDaigoさんは笑います。
プレイした後、心に残り続けるゲームには、作者の様々な思いが込められています。あなたにも、そんなゲームがありますか。ゲームを通して紡がれるストーリーに興味を持ったなら、Odencatのゲームをぜひプレイしてみてください。