インディーズ スポットライト

懐かしさから生まれる
物語

「懐かしさ」という感情に、私自身が強く惹かれるのです
井村剣介さん

今から30年と少し前までの日本にあった「昭和」という時代。その時代に生まれ育った人たちだけでなく、若い世代も含めた多くの人に「懐かしい」という感情を抱かせるゲーム作品を作り続けているデベロッパが、GAGEX(ガジェックス)です。

懐かしさの中にあるポジティブな感情

同社の代表作とも言える「昭和駄菓子屋物語」シリーズでは、おばあちゃんが切り盛りする小さな駄菓子屋さんに子どもたちを集め、店を繁盛させていくのと並行して、物語を楽しむことができます。今もつい食べたくなったり、見つけると買ってみたくなったりする駄菓子や、おばあちゃんがいるお店という、郷愁を感じるゲームのテイストに、多くの人が魅了されています。

GAGEX代表取締役の井村剣介さんは、この「懐かしさ」に、自身が強く惹かれていると言います。

「『懐かしい』という気持ちは、『うれしい』や『悲しい』といった感情と同格の、人にとって基本的な感情の一つなのではないかと考えています。代替となる感情がなかなかなく、しかも時間の経過にともなってより強く感じるものです。基本的に不快にならない、ポジティブな気持ちがともなっているものだとも思います」

子どもの頃の一夏の思い出

そんなGAGEXが手がけた「あの頃の夏休み」は、夏休みに父方の実家がある瀬戸内海の島に遊びに行った少年の冒険と、周囲の人々との心温まるエピソードを描いたゲームです。

ゲームの主人公、そーすけに、食べ物や道具などを持たせると、彼は外へ出かけていきます。そして時間がたち、そーすけが帰宅すると、出先で起きた様々な出来事を教えてくれるのです。8月1日から31日までのそーすけの夏休みを、1日ずつ追体験することで、貴重な経験や、島の人々との物語が少しずつ明らかになっていきます。

そーすけに持たせるものによって、出かける時間や場所、誰と出会うかが変わるので、そーすけの成長を見守りながら、島の人たちとの交流を楽しんでください。

この物語になぜか惹かれるものがあるのは、おばあちゃんの家での夏休みという、共感しやすい懐かしさが底流にあるからなのかもしれません。

時を超えた先の世界

「忘れないで、おとなになっても。」も、懐かしさを感じる街を舞台に、謎解きをしながら少年ミナトの一夏の冒険を体験できる、心温まるゲームです。

立方体のブロックを組み合わせた、ボクセルで描き出されたキャラクターと街並みは、それだけでも様々な場所を探索してみたくなりますが、離婚で離れ離れになってしまった父親の痕跡をたどっていくと、やがて過去を変えるため、33年前の世界での冒険に挑むことになります。

ストーリーの中では謎を解くための手がかりを探すのですが、ゲーム内での会話や、登場する懐かしいアイテムたちがそのヒントとなります。33年前の世界で見付けたお菓子やおもちゃなどはゲーム内の図鑑に登録されていくので、集めたり、振り返って楽しんだりする面白さも味わえるでしょう。

リアルとファンタジーのはざまに

GAGEXが「懐かしさ」を感じさせるタイトルを多く制作しているのには、理由があります。

冒頭でも触れた通り、井村さんが「懐かしさ」という感情に惹かれているというのはもちろんですが、「昭和という舞台装置の上で初めて可能になる、ある種のフィクションのおかげで、独自性のあるポジティブな物語を、プレイする人たちに届けられるのが魅力だから」だと井村さんは言います。

また井村さんは、自分が生まれ育った昭和の時代が、ファンタジーへと変化していっている過程も面白いと指摘します。GAGEXが手がけたタイトルに寄せられたレビューには、「私は平成生まれですが楽しめました」「父親に聞いたら、確かにこういうものがあったと言っていました」といった意見が多数あるそうです。

つまり、ゲームをプレイする多くの人にとって、昭和はすでに未知の時代なのです。

「昭和という時代が、リアルと地続きの現実でありながら、時代劇のようなフィクション、ファンタジーへとグラデーションを描いていく過程にある、この10年くらいの間、昭和を舞台にしたちょっとファンタジーな物語を作ることが、ある種の鮮度を持ち得るのかなと考えています」

「『人生にゲームがあって良かったな』と思える人を、一人でも増やしたいと思っています」と話す井村さん。2021年の新作として、レストラン運営ゲーム「思い出の食堂物語2」もリリースされました。また、「忘れないで、おとなになっても。」の開発チームは、新機軸の新タイトルの制作に向けて始動したとのこと。まだ具体的な発表までには時間を要するそうですが、どのようなゲームが生み出されるのか、期待が高まります。

「懐かしさ」があふれるGAGEXのタイトルに触れたことがなければ、ぜひ一度遊んでみてください。