

触ると心地よい世界
子供の頃から水に触れるのが好きで、自分の動きに反応して揺らめく波や、波紋、水底の光の模様、水中から見上げた水面の反射、きらめく泡などに心惹かれていました箱崎正崇さん
目にした瞬間、触ってみたくなる。そして、触ってみると画面越しに心地よさを感じる。箱崎正崇さんは、そんなAppやゲームを作り続けているデベロッパです。
金魚の動きを再現する
箱崎さんのApp開発の原点は、小学生の頃に飼っていた金魚にあるといいます。
「金魚がフリフリ泳ぐ姿を見ながら、いつかプログラムで再現したいと思っていました。iPhone 3GSが発売されたときに、上から見た平面的な動きであれば再現出来るのではないかと制作を始めたのが『Wa Kingyo』というAppです」

日本の工芸をモチーフにした背景の上を、日本画風の金魚が泳ぐ「Wa Kingyo」を開くと、美しい水面の表現に目を奪われます。光の屈折を赤色、緑色、青色で別々に計算し、色収差を表現しているそうです。
色収差とは、レンズなどを通した光が、波長の違いによって、異なる屈折率で結像するために発生する色のズレのこと。写真などではなるべく発生しないように工夫されている収差をあえて表現することで、水が透明に見えるのだといいます。
とろけた世界を転がるしずく
この「Wa Kingyo」を立体的に表現することを目指し、箱崎さんは水面の様々な表現方法を実験していました。その中で生まれた、自由に形を変えられる平面を元に制作されたのが「MeltLand」というゲームです。
チーズやチョコレートなどの、油性のとろっとした液体で満たされたように見える世界の上で、水のしずくを転がしゴールを目指します。同じ液体なのに混ざらない、油と分離した水がコロコロと転がる様子を見ていると、ゴールを目指すという目的を忘れて様々な動きを試してみたくなります。

プレイヤーがしずくを転がすために操作する表面の盛り上がりは、磁力に反応する液体、磁性流体にヒントを得たと箱崎さん。転がるしずくは、水の中を油の球が転がるオイルタイマーから発想したそうです。
液体の中を流れるキラキラ
やはり液体の動きを再現するため、粒子法流体シミュレーションの実験をしていて、星などが画面内を流れる「KiraFlow」が生まれました。
粒子法とは、液体の動きをシミュレーションする際に、液体を多数の粒子の集まりとして動きを計算する方法です。液滴がはねて分裂・合体したり、形状が大きく変わったりする液体の動きを、高い精度で計算できるとされています。
「プロトタイプを子どもに触ってもらったところ、思いのほか気に入ってくれたので、キラキラ好きな子どものために、宝石やビーズ、虹などのキラキラを詰め込みました」
キラキラ輝くものが水の中をたゆたう様は、ただiPhoneやiPadをゆらゆら動かしているだけでも楽しめます。また万華鏡のような世界に、指先で変化を加えられる面白さもあります。
楽しそう、面白そう、から生まれるApp
自身が好きなものから、様々なAppを生み出している箱崎さんは、立体視画像(ステレオグラム)をリアルタイムで生成し、写真から浮かび上がった物体が回転する様子を眺められる「GriGri3D」というAppも手がけました。

右目と左目で見る画像を少しずらして重ね合わせることで、画像の一部が浮かび上がって見える裸眼立体視のための画像を、ランダムな点の集合ではなく写真から生成しているため、見た目が美しいという利点があります。また、リアルタイムで生成しているため、画面を左右に動かすと、自分で立体物を回転させられ、ここでも触る楽しさが味わえます。
触った時の心地よさを突き詰める
子どもの頃からプログラミングを楽しみ、もの作りを志向して美術大学で工業デザインを学び、現在はインテリアデザインの仕事に就いている箱崎さん。デザインを学んだことは、App制作にも役立っているといいます。
「ユーザーが快適に使えるものにするために、デザインはとても重要だと思います。大学ではプロダクトデザインや空間デザインを主に学んだのですが、『デザインする』ということは見た目だけでなく、ユーザーの様々な使い方を想像し、より快適に使える姿かたちを模索する作業だと学びました。Appを制作する際にも、『この方が使いやすいかな?』『分かりやすいかな?』と模索しながら進めるのですが、そういった時にデザインを学んできたことが役に立っていると感じます」

現在箱崎さんは、本物そっくりに見える金魚の3Dモデルを作成し、様々な実験を行っています。App開発の原点となった、金魚です。
「金魚を動かすAIがうまくできたら、そこから様々なAppを作っていきたいです」という箱崎さんの次回作は、具体的にはまだ決めていないとのことでしたが、「触っていて心地よい」という感覚を突き詰めた先にあるApp、もしくはゲームは、どのような形になるのでしょうか。