CELEBRATING WOMEN

女子生徒に
無料でIT教育を

進路選択のジェンダー格差に立ち向かうNPO、Waffleの取り組み。

中学校や高校でジェンダー格差が大きくなり、結果としてテクノロジー業界に進む女性が少なくなってしまう。ここに根本の原因があるのでは
特定非営利活動法人 Waffle 理事長 田中沙弥果さん

PISAと呼ばれる2022年の国際的な学習到達度調査で、日本の15歳女子はOECD(経済協力開発機構)加盟国中、数学的リテラシーと科学的リテラシーの分野で1位を記録しました。その一方で、日本では理系分野へ進学したり就職したりする女性の割合が、他国と比べて大幅に低いことが知られています。

他国と比べて理数系の分野で高い学力を持つ日本の女子生徒が、なぜそうした進路を選ばないのでしょうか。これを「テクノロジー教育のジェンダー格差」という社会問題として捉えて、女子やノンバイナリーの生徒・学生にプログラミングを無料で学ぶ機会を提供し、個々にエンパワーメントをしているのが、特定非営利活動法人のWaffle(ワッフル)です。

テクノロジー業界に もっと女性を

「私が教室で観察した限り、実は小学校の段階ではプログラミングの授業における態度や意欲に、男女間での差はないんです」

こう語るのは、2019年に一般社団法人(現: NPO法人)としてWaffleを創設した田中沙弥果さんです。各地の小学校で、プログラミング教育普及のための出張授業に従事していた田中さんは、ジェンダー格差の解消に重要なのは、女子中高生に対するテクノロジー教育だという仮説に思い当たったといいます。

「例えば小学校のクラスで、男女2人で1台のiPadを使って、授業をする。そんな時は、男子の方がリーダーシップをとっていくのかと思って見ていたら、実際はそうではなく、女子も熱心に放課後まで残って自習していることもありました。ところが、中学生以降のテクノロジー関連のイベントやコンテストに行くと、女子の比率が10%や5%くらいになるまで減ってしまうんです。

つまり、中学校や高校でジェンダー格差が大きくなり、結果としてテクノロジー業界に進む女性が少なくなってしまう。ここに根本の原因があるのではないか、という仮説を持ちました。それを検証するために、副業で女子中高生向けのプログラミングやキャリア教育のイベントをやり始めたんです。すると、その参加者から実際に情報系の学部に進学する人も出てきました。やはり具体的な機会を提供したり、選択を阻むようなバイアスを取り除いたりするのが有効だと思って、2年間の副業を経て、Waffleを設立しました」

無料で参加できる 3つのプログラム

Waffleでは現在、中高生向けの「Waffle Camp」「Technovation Girls」、大学生向けの「Waffle College」という3つのプログラムを、いずれも無料で提供しています。初心者向けのWaffle Campから、SDGsの社会課題を解決するためのアイデアコンテストに参加するTechnovation Girls、さらにIT企業のインターン獲得を目指す1年間の大学生向けプログラムであるWaffle Collegeまで、その内容は多彩です。

「夏休みや冬休みといった学校の長期休暇に行われる『Waffle Camp』は、HTML、CSSを使って1日でホームページが作れるようになるプログラムです。また、それに加えて現役エンジニアの女性の話を聞いてもらって、進路選択の幅を広げてもらう内容になっています。地方では休みの日も部活動で忙しい生徒が多いのですが、1日だけ来てもらって、IT=難しいというイメージを取り払い、自分が思い描くものが形になることの楽しさを感じてもらいます。

「Progate」では、ゲーム感覚でプログラミングが学べます。

Waffle Campに参加してもらう前には、触ってきてね、というレベルで『Progate』を使って事前に学習してもらっています。無料で始められて、初心者向けにわかりやすいデザインで説明があり、環境構築もいらないので、画面上ですぐに始められます。また、直接授業では使っていませんが『octostudio』や『Swift Playgrounds』も初心者に扱いやすいアプリとして勧めることがあります」

Waffleから巣立つ 生徒・学生たち

「私は岡山出身で、もともとロボットや工学系の分野に興味があったのですが、地元では女性で同じようなことをやっている人がいなかったんです。Waffle Campに参加して、初めて同じ生徒や年上の女性たちと出会えて、それがすごく嬉しかったです」

こう語るのは、中学生の時にWaffle Campに参加して、それをきっかけに高校でTechnovation Girlsにも挑戦し、現在は大学生として工学部で学んでいる、祢屋(ねや)希さんです。

「Technovation Girlsでは、5人でチームを組んで議論しながらアプリのアイデアを組み立てるんです。私のチームでは『Bridgeship』という、日本の若者が社会に対して声を上げて行動しやすくするためのアプリを開発して、米国のコンペでセミファイナリスト、日本では企業賞をいただきました。メンバーと時には衝突することもあったんですが、そういう経験自体が初めてで、最後はすごく仲良くなって、本当に参加して良かったと思っています」

「私は大学で文系の学科を専攻していて、ITには全然興味がなかったんです。でも、何か新しいことに挑戦してみたくてWaffle Collegeに応募しました」

現在では大学に通いながら大手IT企業のインターンに参加しつつ、Waffleで下の世代の学生を育てる側にも立つという井ノ上すみれさんの場合は、1年かけて行われるWaffle Collegeコースの中で、様々な学びや出会いを得たと言います。

「プログラムの中ではエンジニアの勉強だけではなく、キャリア講座や女性エンジニアの話を聞く機会があるので、ジェンダー格差を是正するためのアクションまで、具体的な例で学べました。印象に残っているのは、企業のオフィスツアーに行って、実際に女性がエンジニアとして働いているのを見て、自分もこんな環境で働ける人間になりたいと思ったことです。今からやれば全然できるよ、という言葉をかけてもらった時は嬉しかったですね」

ジェンダー格差の ない未来に向けて

女性は理系への進学や就職に向かないという思い込みや、お手本となる上の世代との出会いの少なさが、女子生徒・学生たちの進路選択の幅を狭めてきたという現実に、Waffleは創業からの4年近くをかけて取り組んできました。今後の目標について、創設者の田中さんは政府や自治体との連携まで含めて、こう語ります。

「日本政府の理工系女子育成事業は、全体の次世代育成事業の中では、まだ1%くらいの予算しかないんです。それを増やすべきだという提言をしていて、過去に4,200万円だったものが直近の予算では7,200万円になり、少しずつ予算は増えています。日本政府としても、理系学部の学部生割合を現状の35%から50%まで上げたいという意向があるので、文系学部の多い私立大学に理工系の学部を新設できるように3,000億円の予算が計上されました。これまで私立文系を狙っていた女子学生たちが、そちらを目指す可能性もあると思います。

Waffleを創業してから5年目になりましたが、今後は目に触れる人数をさらに増やしていきたいと思っています。昨年はWaffleの活動を踏まえて、地方の人たちにも情報を届けたいという思いから『わたし×IT=最強説 女子&ジェンダーマイノリティがITで活躍するための手引書』という本も刊行しました。実際にIT業界で活躍している16人のインタビューが掲載されているので、ぜひロールモデルとして参考にしてほしいと思っています。まだまだ、いろいろな問題があるのは承知の上で、保護者や先生などを含めて様々な人たちにアプローチして、ジェンダー格差が解消されるまで、機会をたくさん届けられる仕組みを作っていきたいですね」

Waffleが活用しているアプリ